業績不振などを理由とした「整理解雇」によって会社から解雇通告を受けた場合、どうすればよいのでしょうか?
整理解雇は必ずしも従う必要はありません。法的な理由がなければ不当解雇として争うことも可能です。解雇理由に納得ができないのであれば、あきらめる必要はありません。
今回は整理解雇が有効になる条件や、不当解雇にあたった場合にどう対処すべきかを弁護士が解説します。
整理解雇とは?通常の解雇やリストラとの違い
解雇には、「普通解雇」と「懲戒解雇」の2つに分類され、「普通解雇」の1種として「整理解雇」があります。このうち、整理解雇は、使用者が不況や経営不振などの理由で解雇せざるを得ない場合に「人員削減」のために行なう解雇です。それぞれの解雇の概要と手続きを見ていきましょう。
(1)普通解雇(整理解雇以外)
普通解雇は、使用者からの申出により労働者との雇用契約を一方的に解除することをいいます。一般的に指す解雇は「普通解雇」を指していると考えてよいでしょう。
例えば、解雇理由としては次のようなものが挙げられます。
- 勤務態度に著しい問題がある
- 著しく反抗的な態度をとり業務命令に従わない
- 職務規律に違反して改善の見込みがない
普通解雇に限りませんが、解雇は使用者がいつでも自由に行なえるわけではありません。労働者を解雇するには「客観的合理的理由」と「社会的相当性」という2つの厳しい要件を満たす必要であります(労働契約法第16条)。
また、客観的に合理的な理由や社会的相当性の要件を満たす場合であっても、使用者は労働者へ30日以上前に解雇予告しなければなりません。予告が間に合わない場合は、30日分以上の解雇予告手当を支払う必要があります(労働基準法第22条)。
(2)懲戒解雇
懲戒解雇は、労働者側に会社の規律に違反する行為がある場合に「懲戒処分」として行なう解雇です。
懲戒処分は違反の程度により、一般的に「戒告」「譴責(けんせき)」「減給」「出勤停止」「降格」「諭旨解雇」「懲戒解雇」の7種類に分けられます。このうち、懲戒解雇は懲戒処分のなかで最も重いものです。
懲戒解雇となる可能性があるのは、以下のような場合です。
- 会社のお金を横領した
- 2週間以上無断欠勤をし、連絡がとれない
- 重大な刑事事件を起こして有罪になり、会社の信用を失墜させた
なお、懲戒処分をするとき、使用者はあらかじめ定めた就業規則において懲戒の種別や原因を定めておかねばなりません。
解雇は重い処分となるため、客観的かつ合理的な理由がなく、社会通念上相当な範囲を超えて行なうと、「懲戒権の濫用」として無効になる場合があります(労働契約法第16条)。
(3)整理解雇
整理解雇は、業績不振に陥った企業が存続するためにやむをえず行なう解雇です。
倒産を避けるために人員削減をしてコストを下げる目的で行なわれます。整理解雇が有効になるためには満たすべき要件が4つあり、整理解雇が裁判で争われると、この4つの要件を満たしているかが争点になります。
「整理解雇の4要件」については、次の章で詳しく解説します。
(4)整理解雇とリストラの違い
整理解雇とリストラの違いについても把握しておきましょう。
リストラは正式には「リストラクチャリング(Restructuring)」といい、元来「事業再生」を意味します。整理解雇だけではなく、以下のような方策を全て含む概念です。
- 不採算部門の整理
- 資産売却
- 事業譲渡
- 事業の方向性の転換
- 希望退職者の募集
- 有期雇用者の雇い止め
つまり、リストラは本来、整理解雇より広い概念であり、整理解雇は「リストラの一環」といえるでしょう。
整理解雇の有効性を判断するための4つの要件
整理解雇が有効になるためには、以下の4つの要件を満たさねばなりません。
- 人員削減の必要性
- 解雇回避の努力
- 人選の合理性
- 解雇手続の妥当性
実際には要件を満たさない整理解雇が行なわれるケースも多々あります。
もし、会社から業績不振を理由に解雇を言い渡された場合は、まずこの4つの要件にあてはまっているかを確認しましょう。4つの要件にあてはまっていなければ、不当解雇として争える可能性があるためです。
以下からはそれぞれの要件について詳しく解説します。
(1)人員削減の必要性
1つ目の要件は「人員削減の必要性」です。企業が存続するために人員削減が必須といえる状況であるかが焦点となります。
不況や経営不振などによる倒産を防ぐため、企業経営上必要でないと整理解雇を行なってはいけません。
(2)解雇回避の努力
業績不振になったからといっても、それだけでは整理解雇の理由として不十分です。
配置転換や希望退職者の募集など、ほかの手段によって解雇回避のために最大限努力する必要があります。
もし整理解雇された場合は、企業が事前に一時帰休・配置転換・助成金の利用・早期退職者の募集などの措置を行なったか確認してみてください。
(3)人選の合理性
整理解雇の対象者選定に合理性があることも要件です。
人選に客観的で合理的な基準があり公正でなければ、整理解雇が無効になる可能性があります。
例えば、以下のような人選は無効になる可能性があります。
- 女性ばかりを解雇対象にする
- 「誠実な社員」「勤勉な社員」など客観性を欠く抽象的な理由で人員を選定する
一方で、以下のような人選であれば、労働問題になりにくいといえます。
- 再就職できる可能性が高い者を解雇対象候補とする
- 年齢及びこれまでの成績によって人員を選定する
(4)解雇手続の妥当性
最後は「解雇手続の妥当性」です。
企業側は労働組合や労働者に対し、整理解雇の必要性・時期・規模・方法について誠実に説明し、理解を得る努力をする必要があります。
必ず納得してもらう必要はありませんが、誠実に協議するステップを踏むことが重要です。
使用者から解雇通告があったら……整理解雇の正当性を確認する
もしも、使用者から整理解雇の通告を受けてしまった場合は、正当な理由による解雇か確認しましょう。
以下にあてはまらない場合、不当解雇といえる可能性があります。
(1)30日以上前に解雇予告通知があったかどうか
整理解雇であっても、労働基準法上「解雇予告」をしなければなりません。予告が間に合わない場合は、30日分以上の解雇予告手当を支給する必要があります。
解雇予告も解雇予告手当の支給も受けていない場合、不当解雇にあたる可能性があります。
(2)整理解雇の事前説明や協議が行なわれたか
整理解雇が有効になるには、基本的に労働組合や労働者に対して事前説明や事前協議を行なわねばなりません。こうした説明や協議の機会が与えられず、いきなり解雇が決行された場合、無効にできる可能性があります。
(3)そのほかに確認すべき事情
上記のほか、以下のような事情があれば、不当解雇となる可能性があります。
- 「業績不振」といいつつ求人募集を継続している
- 希望退職者を募集していない
- 女性ばかりが解雇対象となっている
- 上司や経営者と折り合いの悪い従業員ばかりが解雇されている
- これまでと残業量が変わらない
- 配置転換・給与・ボーナスカットなど解雇を回避するための措置が行なわれていない
- 役員報酬が今までと変わらず高額である
- 会社都合退職ではなく自己都合退職にされている
不当解雇と戦う方法
整理解雇に納得できない場合は、解雇の効果を争えます。ただし、その際は「自身が最終的に何を実現したいか」を明確にしておきましょう。
例えば、以下のような要望が考えられます。
- 解雇を無効としてもらい、同じ会社で再び働きたい
- 整理解雇されて不払いとなっている賃金を支払ってほしい
- 逸失利益として再就職までに必要な期間分の賃金を請求したい
- 解雇自体が不法行為にあたるとして慰謝料を請求したい
続いて不当解雇を争うための具体的な方法を紹介します。
(1)使用者と直接交渉
1つ目は、労働者から使用者へ直接解雇の無効を訴える方法です。
もしも、使用者から解雇通知書や解雇理由証明書を受け取っていなければ、先に発行するよう請求してみてください。
準備ができたら、「整理解雇は無効」として未払賃金や慰謝料、地位の回復を求める通知書を内容証明郵便で送付しましょう。
(2)都道府県労働局のあっせんを利用する
2つ目に、都道府県労働局の紛争調整委員会(※)による「あっせん手続き」を利用する方法があります。
この手続きを利用すると、労働局の担当者が公正・中立の立場から企業と労働者の間に入り、話合いを調整してくれます。
※紛争調整委員会:弁護士、大学教授などの労働問題の専門家である学識経験者により組織された委員会
紛争調整委員会による「あっせん手続き」を利用するメリット・デメリットは次のようなものがあります。
(2-1)あっせんを使うメリット
- 費用が無料
- 手続きが迅速で簡便
- 手続きは非公開で、プライバシーが保護される
- 公的機関に間に入ってもらうことにより、直接交渉より話合いを進めやすくなる
なお、労働者があっせんの申請をしたことを理由として、使用者が労働者に対し不利益な扱いをすることは禁止されています。
(2-2)あっせんを使うデメリット
- 拘束力がないため、期日に出席するか、あっせん案を受入れるかは使用者が自由に決められる
- 合意内容に強制力がなく、約束が守られるとは限らない
- 合意できない場合や合意内容の不履行があった場合、あらためて裁判する必要があり二度手間になる場合がある
公的機関の介入により調整できそうであれば、あっせん手続を利用する意味があります。一方で双方の対立が大きい場合、あっせんは不向きといえるでしょう。
(3)弁護士に相談する
3つめは弁護士に相談・依頼する方法です。
弁護士に相談すると、整理解雇が有効となるかどうかについて見通しを確認できます。また、企業との交渉・労働審判・訴訟も任せられます。
(3-1)弁護士が対応すると、企業側が妥協するケースがある
自分で交渉するよりも弁護士が交渉したほうが専門的である分、整理解雇が無効と認められやすくなります。結果として、解雇期間中の賃金や慰謝料が支払われる事例が少なくありません。
交渉から労働審判、訴訟までを考えると、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
(3-2)負担が軽減される
自身で企業と交渉するのは大変な手間と労力がかかり、精神的な負担もかさみます。弁護士に任せることで、これらの負担が大きく軽減されるでしょう。
【まとめ】整理解雇が不当ではないかとお悩みの方は弁護士にご相談ください
「整理解雇を通告されたが退職したくない」「企業側の説明する解雇理由に納得がいかない」といった方は、必ずしも泣き寝入りする必要はありません。解雇をするには、相応の要件を満たす必要があります。根拠をもって交渉、あるいは労働審判や訴訟を利用すれば、使用者から解決金が支払われるケースが多々あります。
ただし、一般の個人である労働者と企業が交渉するのは簡単なことではありません。労働基準監督署は民事不介入のため、労働局のあっせんには強制力が認められない問題があります。
そんなとき、頼りになるのは弁護士です。整理解雇が不当ではないかとお悩みの場合、一度弁護士にご相談ください。
弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。